【事故物件に関する法律改正】 事故物件の定義となるガイドライン制定

【事故物件に関する法律改正】事故物件の定義となるガイドライン制定
2022年08月31日(水)

マンションやアパート、戸建てなどの不動産を所有している際、残念ながら「入居者が亡くなる」事案に遭遇することもあります。
近年、メディアで取り上げられ話題になっているいわゆる「事故物件」とされるケースです。

一般的に事故物件とは、事件や事故など何らかの原因により、以前の居住者が亡くなったなどの物件をいいます。
当然ながらネガティブな印象が大きく、物件の資産価値にも影響を及ぼしかねません。
次の入居者を募る時にも、「事故」の詳細を告知しなければならないとされてきました。

一方で、「事故物件」について、明確に定義されてきたわけではありません
告知義務の必要な期間や情報開示の範囲が曖昧で不明瞭だとの指摘も挙がっていました。
そこで2021(令和3)年10月、国土交通省(国交省)は告知についての判断基準を明確にした「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を公表しました。

事故物件とはどのような場合に該当するのでしょうか。
新たなガイドラインにおいて示された告知義務の内容や所有物件が「事故物件」となった場合の対策を含めて詳しく解説します。

そもそも事故物件とは?

事故物件とは「心理的瑕疵が生じる物件」とされてきました。
「瑕疵(かし)」とは、きずや欠点、広くは過失を意味する言葉です。
心理的瑕疵とは、気持ち的に抵抗やストレスが生じるというニュアンスになります。
自分が住もうとしている住居で事故があった、人が亡くなっていたと知った場合、心理的に負担や抵抗を感じるのは仕方のないことでもあります。
そのため、居住用の不動産ではたとえそれが物件の価値を落とすような内容であっても、購入者に伝えるよう義務づけられています(宅建業法47条1項)。

ただ、人が亡くなる理由はひとつではありません。
自殺や事故などによる他殺だけでなく自然死を含めた孤独死でも「人が亡くなった」という事実には違いありません。
自然死についても「心理的瑕疵」を感じるかどうかはケースバイケースの部分もあるはずです。
心理的瑕疵の生じる物件そのものの定義がはっきりしていませんでした。

しかし宅建業法で買主や借主に対して伝える義務があるとは定められていても、具体的な内容について記載はありません。
告知する内容や伝えるべき期間がないため、判断は売主に委ねられているような状態が続いてきたのです。

以前までの事故物件の定義

事故物件ははっきりとしない部分が多いため、何らかのデメリットがある物件も「事故物件」とされる傾向にありました
例えば、人が亡くなっていなくても何らかの不快感を覚え、住みづらさを感じる施設があれば「心理的瑕疵」に該当すると判断されています。
例えば墓地や火葬場などが近い、反社会的勢力団体が居住しているなどのケースです。

物件の周辺環境においても場合によっては「ストレスに感じる」人や事例があれば「事故物件」に当てはまります
このように事故物件の定義が広いため、判断でも判断に迷う事例が多数存在していました。

国交省による「宅地建物取引業者による人の死に関する告知ガイドライン」制定

買主や借主にとってデメリットとなる心理的瑕疵などの事項は、告知の義務があるとお伝えした通りです。
しかし告知する内容に定めがなく、ルールがわかりづらいことが売主や買主にとって悩みの種ともなっていました
すべての事象に対して事細かに、また長きにわたり告知するのは骨の折れることです。

さらに「人が亡くなった物件」はどんな物件でも「事故物件」と認識されるというおそれから、単身の高齢者の入居が難しくなるなどの問題も発生しています。

そこで国交省では、2021(令和3)年10月8日に心理的瑕疵「告知」についての判断基準を示すべく新たな指針を公表しました。
宅地建物取引業者による人の死に関する告知ガイドラインです。

ガイドライン制定の背景

人の死が関連する物件に入居する場合、買主や借主がナーバスになってしまうのは仕方のない部分でもあります。
一方で死亡理由を含めた情報の共有や告知に関するルールが明確ではないことは売主や貸主にとってもデメリットです。

また入居ニーズが増加しつつある中、事故物件が明確化されれば、不動産取引の活発化に好影響を及ぼすでしょう。
ルールがはっきりすれば「人の死」がすぐに事故物件だと見なされないような側面も出てくるからです。
これは健康問題などから入居を敬遠されがちであった高齢者にとっての対策にもなり得ます。

双方が安心して不動産取引を行うため、公の機関である国交省が対策に乗り出した形です。
今の時点での裁判例や取引の実務に照準を合わせ、新たな指針をまとめました。

対象は「住宅」のみ

ガイドラインの対象となるのはあくまで居住用の不動産、つまり住宅のみです。
オフィスや事務所、店舗またホテルなど住宅以外の不動産は対象外となります。
同ガイドラインによれば、住宅は人が「継続的に」生活する場であり、不動産取引において快適さや住み心地を重視されるからだとまとめています。

その上で「人の死」は買主・借主が求める「住み心地」に大きな影響をあたえるものだと判断しています。
人が住む上での快適さとの関連度合いが高いというわけです。

さらにマンションなどでは、対象となる不動産以外に共用部分も該当します。
専有部分だけでなく、エレベーターや階段、廊下やエントランスなども含まれます

ガイドラインにおける告知の範囲

ガイドラインでは、「人の死に関する事案が、取引の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合には、これを告げなければならない」ことを大前提としています。
しかしガイドラインが制定される前の案の段階で「人の死」と「心理的瑕疵」についての関連性がはっきりしないとの指摘がありました
そのため、「告知を不要とするケース」を定義づける形で告知の範囲をはっきりさせています。

また宅地建物取引業者が媒介を行う場合の告知の体裁においても、告知書などに過去に生じた事案についての記載を求めれば、「通常の情報収集としての調査義務を果たした」と認めてることも記されています。
原則として、近隣住人への聞き込みの実施やインターネットでの調査などを自発的に行う必要がないとも定めています。

告知が不要となるのは、以下の3つの場合です。
ただし賃貸、売買双方に該当するケースと、賃貸取引のみに当てはまるケースがあります。 順を追ってご紹介します。

告知を不要とするケース※

ガイドラインが作成されたため、「告知」についてわかりやすくなった側面はあります
それでも告知を「原則」と前置きするのには、やはり「人の死」に対するネガティブな印象を取り除くのが難しいからでもあります。

先ほどお伝えした「心理的瑕疵」は人の心に根差す問題ですから、デリケートでグレーな部分が否めません。
どんな「死」であれ、抵抗を感じてしまう方は存在するものです。
逆にまったく気にされない方もいます。
ガイドライン作成にあたって、あらためて「心理的瑕疵」を定義づけするのが難しい点が浮き彫りになった結果だと言えるでしょう。

そこで国交省では、「原則」として「告知」を避けられるケースを示しています。
それが次の3項目です。

1)自然死・不慮の死※

老衰や病気などで亡くなるのは「自然死」にあたります。自宅において多くの人が亡くなる原因の1つであり、自然死は告知の必要がないと定義されました。

また自宅階段からの転落、入浴中の転倒や溺死、食事中の誤嚥などは不慮の事故として取り扱われます。
こちらに関しても予想できる死因であるため、ガイドライン中には原則として「告げなくてよい」と記されています。
なお、賃貸、売買双方共に自然死・不慮の死に関しては告知不要となりました。

ただ「不慮の死」に関しては判断が難しいところで、買主・借主によって気にされる方も少なくないと考えられています。
ガイドラインで「原則として」と付け加えられています。
そのため、告知不要としながらも例外的な事例(特殊清掃が行われた場合など)が記載されているのです。
例外事例につきましては次の項目で詳しく解説していますので、参考にしてください。

2)賃貸における希釈期間3年の経過

2)は、賃貸においてのみ告知不要の事例となります。
通常使用する必要がある集合住宅の共用部分において、1)自然死・不慮の死以外の死亡事例、また1)で特殊清掃が必要となった場合に関しては3年間告知しなければならないと定義しました。

つまり、3年経過すれば告知しなくてもいいというわけです。
これは、心理的瑕疵の対象となる事件の記憶が、時間の経過と共に薄れてくるという判断に基づく考え方となります。
この事例に関しては、3年の経過前に次の借主(二次賃借人)が現れることは想定されていません
3年という定義が示された点では有意義なものの、まだ判然としない部分も存在しています。
さらに「特段の事情がない限り」との断りも記載されているため、「事情」次第ではトラブルと可能性も否定できません
売買については告知期間が決められていません。

3)隣接住戸・通常使用しない共用部

隣接住戸および日常生活において通常使用しない集合住宅の共用部分については、1)自然死・不慮の死以外の死亡事例、また1)で特殊清掃が必要となった場合どちらも告知しなくてもいいとしています。
これは賃貸、売買双方共にあてはまります

「通常使用しない集合住宅の共用部分」とは、どんな場所になるのでしょうか。
ガイドラインによれば、「例えばベランダ等の専用使用が可能な部分のほか、共用の玄関・エレベーター・廊下・階段のうち、買主・借主が日常生活において通常使用すると考えられる部分」とあります。

これ以外の部分が「使用しない共用部分」となります。逆に「通常使用する部分」での事例に関しては、告知の必要があるわけです
どの箇所が告知不要なのか、場合によっては迷う箇所とも言えます。

告知不要に該当する場合でも告知を要する特殊なケース

上でご紹介した3つの事例については、告知が不要であるとのルールが公表されました。
ただ、必ずしも3事例が優先されるわけではなく、「例外」が存在します
例外については明示されているものの、告知の要不要についてどういった場合が例外に該当するのかがわかりにくいのが難点です。
ガイドラインでは以下の場合において「例外的に」告知が必要だと記載しています。

自然死でも特殊清掃が入ったケース

老衰や病気による死亡であっても、その死が原因で特殊清掃が行われた場合は告知の必要があります。
特殊清掃とは原状回復のために消臭や消毒を行うサービスで、場合によっては大幅なリフォームを実施することもあります。
人が亡くなったことで臭気や害虫が発生する場合もあるためです。
ガイドラインでは、特殊清掃の実施が買主・借主の心理的なストレスにつながり、契約などの判断に重要な影響を及ぼす可能性があるものと見なしています。

自然死でも長期間の放置があったケース

自然死であっても、単身の方などで発見に時間を要するケースは少なくありません。
このように長期間ご遺体が放置されると、特殊清掃も大がかりにならざるを得ません。
上の場合と同様、リフォームを行うこともままあります。
告知するときは発生時期(特殊清掃などが行われた場合は発覚時期)、場所、死因などの詳細を伝えるよう記されています。
一方で「長期間」の放置がどのくらいであるかが明記されておらず、判断が難しい部分もあります。

対象不動産・通常使用する共用部における死

対象不動産・通常使用する共用部における死の告知義務

※上記のどの場合であっても、社会的影響の大きい事案は告知を要する。(下記詳細)

隣接住戸・通常使用しない共用部における死

隣接住戸・通常使用しない共用部における死の告知義務

告知不要に該当していても社会的影響が大きいケース

告知不要の条件を記しながらも、ガイドラインが基本的な原則としているのが次のポイントです。

“人の死の発覚から経過した期間や死因に関わらず、買主・借主から事案の有無について問われた場合や、社会的影響の大きさから買主・借主において把握しておくべき特段の事情があると認識した場合等は告げる必要がある”

このような事例だと判断された際、賃貸で3年以上経過したとしても告知を行う必要が出てきます。
売買でも同様です。ガイドラインではまた「買主・借主が納得して判断した上で取引が行われることが重要」だとも記しています。
売主・貸主としてはあくまで個々の事例に応じてのケースバイケースの判断が求められます

ガイドライン制定もトラブルは減らない?

「事故物件」については、その定義がはっきりしない中で言葉だけが一人歩きしてきた経緯があります。
国交省のガイドラインが「告知が必要のないケース」を示したことは大きな意味を持ちます。
人が亡くなったというだけで「事故物件」だという短絡的な判断も少なくなるメリットもあるでしょう。

しかし例外的に告知が必要な場合に関して、その定義が明確ではなく、かえって混乱を招く部分があるのも事実です。
例えば自然死の告知が必要な「長期間」とはどのくらいの期間であるのかは明示されていません。
また買主・借主にとっての心理的瑕疵になり得る「社会的影響」の大小についても、その基準を見極めるのは困難だと言えるでしょう。

加えて賃貸における希釈期間である「3年」が売買においては適用されていません
つまり自然死以外の告知期間ははっきりしないままとなっています。
「告知」が原則な上、曖昧な部分が大きいことで逆にトラブルにつながるリスクも高くなるとも考えられます

また「人の死が発生した建物であっても、その後取り壊された場合の土地はどうなるのか」「物件以外の場所で亡くなった事例の判断」など、不明瞭なケースや課題はまだまだ多いのが実情です。
実際に不動産取引でトラブルが発生した場合の説明不足を指摘されるなども懸念材料となるでしょう。
事故物件なのか、告知義務があるのかの判断は未だ難しいと言えます。

残念ながら一度「訳あり」だと見なされるとネガティブな印象を変えるのにも労力がかかります。
それならば物件を手放してしまうのがシンプルな解決策でもあります。
売却という選択肢こそ、所有者様には最良の選択かもしれません

監修者

宮野 啓一

株式会社ティー・エム・プランニング 代表取締役

国内 不動産トラブルの訴訟・裁判解決件数:150件
国内 訳あり物件売買取引件数:1150件
海外 不動産トラブルの訴訟・裁判解決件数:30件

※宮野個人の実績件数

宮野啓一

経歴

1964年、東京(六本木)生まれ。叔父・叔母がヨーロッパで多くの受賞歴を持つ一級建築士で、幼少期より不動産や建築が身近なものとして育つ。
日本大学卒業後、カリフォルニア州立大学アーバイン校(UCI)に入学。帰国後は大手ビルオーナー会社に就職し、不動産売買を行う。
平成3年、不動産業者免許を取得し、株式会社ティー・エム・プランニングを設立。同時期より第二東京弁護士会の (故)田宮 甫先生に師事し20年以上に渡り民法・民事執行法を学ぶ。
現在まで30年以上、「事件もの」「訴訟絡み」のいわゆる「訳あり物件」のトラブル解決・売買の実績を積む。
またバブル崩壊後の不良債権処理に伴う不動産トラブルについて、国内・海外大手企業のアドバイザーも兼務し数多くの事案を解決。
日本だけでなくアメリカや中国の訳あり物件のトラブル解決・売買にも実績があり、国内・海外の不動産トラブル解決に精通。米国には不動産投資会社を持ち、ハワイ(ワイキキ・アラモアナエリア)・ロサンゼルス(ハリウッド・ビバリーヒルズ・サンタモニカエリア)を中心に事業を行う。

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